「ゴーストキッチン」とは、デリバリーやピックアップメニュー専用のシェア型厨房のことです。特定のお店の看板は出さず、複数のレストランが中に入っている場合もあります。アメリカでは、Uber Eats(ウーバー・イーツ)、Grub Hub(グラブ・ハブ)、Door Dash(ドア・ダッシュ)など、第三者のデリバリーサービス会社がゴーストキッチンを運営し、注文からデリバリーまでを請け負っているケースが多いです。
(ゴーストキッチンの需要拡大に関する過去記事はこちら)
コロナ危機によって、デリバリーやテイクアウトの需要が現在急増し、非接触型のサービスに対する注目が高まる中、ゴーストキッチンの業態もトレンドになっています。それが今後も続くのかどうか、アメリカのファストカジュアルレストランを中心に、飲食業界の情報を発信するメディア「QSR」が伝えています。
(元記事:Will the ‘Ghost Kitchen’ Trend Continue During and After COVID-19? )
いかに効率よくテイクアウトやデリバリーを運営できるかが、今後の重要なポイントか(写真は元記事より)
ゴーストキッチンの隆盛
アフターコロナの世界で外食産業にどのようになるのか、未知の部分は多いですが、ゴーストキッチンが依然として人気の選択肢であることは否定できません。ホスピタリティ企業 SBEエンターテインメントグループのフードホールとバーチャルキッチン部門の子会社である「Creating Culinary Communities (C3)」は、年末までにさらに138のゴーストキッチンをオープンする予定で、それに向けた採用活動を実施中です。同様に、レストランチェーンの「Kona Poké(コナポケ)」は、マイアミのリーフキッチンの施設内に20のゴーストキッチンの第一号店を計画しています。
ゴーストキッチンが今の状況下で注目されているのには、いくつかの理由があります。
まず、「ソーシャルディスタンス」が確保されているということです。ゴーストキッチンでは、顧客同士の接触や、従業員と顧客との接触は発生しないため、衛生面での安全性が高いです。
次に、新たにフルサービスのレストランを開業するよりも低コストで、市場に出るまでの時間を短縮することができます。フロントスタッフやサーバーに対する経費がかからず、広い店舗スペースも必要ありません。
したがって、既存のブランドにとっては、低いリスクで新しいエリアに進出したり、全く新しいコンセプトを試したりできるというメリットがあります。
今後は、様々な形でゴーストレストランが活用されることになると予想されています。
一番多いのは、フルサービスレストランが、テイクアウトやデリバリービジネスのサポートのために利用するケースでしょう。他には、自分たちのキッチンをゴーストキッチンとして、他のブランドに提供し、収益モデルを増やす場合も出てくるかも知れません。さらにデリバリーやテイクアウトが増えれば、第三者が運営で他ブランドとシェアするのではなく、自身のブランドの独立したゴーストキッチンが増える可能性も高いです。
デリバリーサービス会社「Door Dash」が運営するゴーストキッチン
大切なのは「創造性」「柔軟性」「俊敏性」
ゴーストキッチンを運営する上で大事なことは、キッチンが高い「創造性」「柔軟性」「俊敏性」を持っていることです。そのためには、AIや高度な分析ツールなどの新たなテクノロジーや、取得した顧客データの活用することの重要性を伝えています。
自社で集めたり、第三者のデリバリー会社から取得したデータを分析することで、まず、在庫やメニューの管理を効率的に行えるようになります。何がどこで売れているかがわかることで、トレンドを把握したメニュー開発、材料の発注数を調整できます。無駄な在庫も削減できることで、今後高まるサスティナブルな消費志向にも対応可能です。
サプライチェーンの管理もできるようになります。データを収集・分析することで、食材を適正価格で入荷でき、現在のように何かサプライチェーンに問題があったときにも柔軟にメニューを調整したり、サプライチェーンの変更を行うことができます。
顧客の嗜好を把握できることも重要です。ターゲットを絞った特別なオファーや、地域ごとに異なるキャンペーンを実施できます。既存の顧客がわかることで、新たな客層へのリーチも可能です。特定の場所にしばられないゴーストキッチンだからこそ、より重要になってきます。
今後も外食産業は、顧客に対して素晴らしい料理を提供するために、あらゆる選択肢を探し、試していきます。より低いリスクとコストで新しいことを試したり、販路を拡大するために、ゴーストキッチンは重要な役割を果たしそうです。
ー YAGI USA コメント ー
現在のコロナウイルスもそうですが、いつどんな状況に変化するかわからない時代です。また、Uber EatsやGrub Hubのような新しいサービス会社も、次々と生まれてくるでしょう。
その中で「変化に対応できる」ということが、より重要になってくると思います。その変化に対応するためのひとつの手段が、このゴーストキッチンではないでしょうか。フルサービスのレストランがひとつの場所で、ひとつのサービスを行っている場合、それが急に危機的状況に陥ると、一気に経営が追い込まれてしまいます。
例えば、ゴーストキッチンの場合、レシピがフォーマット化されていて、調理できるスタッフを確保することができれば、土地を選ばすに自身の店舗の商品を提供することができます。そこに、先日の記事でも書いた「バーチャル・ダイニング」のシステムを組み込むことができれば、遠く離れた地でも、自身のレストラン体験を提供できるかも知れません。もちろん、時差などは考慮しなくてはいけませんが、ぐっと可能性は拡がるはずです。
日本でも、アフターコロナの世界での飲食業界は、運営ルールや、デリバリーの需要なども、大きく状況が変わります。苦しむ日本の飲食業界を救うのは、もしかしたらゴーストキッチンかも知れません。
【YAGI USA ビジネスコラムライター(東京): 神戸 孝平】
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