新型コロナウイルスの影響と、それによる消費者の習慣が変わっている中、ほとんどレストランでは、デリバリーサービスの導入は避けられない現実となっています。
Grubhub(グラブハブ)、Uber Eats(ウーバーイーツ)、DoorDash(ドアダッシュ)などの大手デリバリープラットフォームは、多くのレストランの存続にコロナ禍で貢献してきましたが、レストラン側は、いまだに注文ごとに30%もの配達手数料を負担しています。一方でデリバリーサービス側も、収益が急増しているにもかかわらず、事業自体は不採算のままです。
そのような状況の中、より低料金で、よりサービスに力を入れたレストランに優しいビジネスモデルが登場してきました。
ここでは、大手プラットフォームとは異なるユニークなサービスを行っている3社を紹介します。
(元記事 Restaurant Business:3 UNIQUE DELIVERY MODELS TO WATCH)
コロナ禍で飲食店のデリバリーサービスが必須となる中、様々なサービスが登場しています(画像は元記事より引用)
1. Runner(ランナー)
画像はRunnerのHPより
シアトルを拠点とするRunner(ランナー)は、「レストランに配達手数料を請求しない」という点で注目を浴びています。注文した顧客は12%のサービス料と、ドライバーが注文を届けるまでの時間に応じて変わる配達料を支払います。
また、ランナーのドライバーは自分たちで給料を設定しているのもユニークな点で、CEOのルード氏によれば時給で16ドルから20ドルくらいが通常だそうです。
一見ランナーにとってはメリットがなさそうですが、ドライバーとレストランの両方にとって魅力的なサービスにすることで、ドライバーの獲得コストが結果的に節約できるといいます。
ランナーは今年の6月に立ち上がったばかりで、1日の注文はまだ「数十件」程度です。現在は約2,000のレストランが登録し、約70~100人のドライバーが毎日活動しているそうですが、経営を考慮し、1,400店に限定しているそうです。
サービスモデルが固まってき始め、すでにシアトルの人気レストランからも提携を希望する問い合わせなどが増えているそうで、より多くの注文に対応できるようなネットワークの構築を急いでいるとルード氏は述べています。
2. Chowbus(チャオバス)
画像はChowbusのHPより
Chowbus(チャオバス)は、ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴなどの25都市でサービスを提供し、数千の店舗と提携しています。チャオバスのユニークなポイントは、本格的なアジア料理店のみに特化している点です。
チャオバスでは、提携するレストランパートナーにとって「隅々まで行き届いた」デリバリーソリューションを提供するプラットフォームを目指しています。ここでの「隅々まで」というのは、営業担当者からマーケティング、さらにはドライバーまで、ほとんどのスタッフが中国人であることを意味します。 提携店のほとんどが、中国からの移民や中国語のネイティブスピーカーによって経営されている個人経営のレストランであることも、このサービス体制の理由です。
ジャンルに特化していることで、コミュニティと強く連携することができ、先のランナーと同様、新規レストランパートナーの獲得が容易になっています。多くの都市では、アジア系レストランはチャイナタウンのような特定のエリアに集中しており、これも新規パートナー獲得や、デリバリーの効率化に役立っていると、COOのツァイ氏は言います。
同社では、特定のジャンルに強いサービスにしたことで、30~40%の店舗がチャオバスと独占的に提携しています。また、ユーザーのほとんどはアジア人であり、慣れ親しんだ料理を手軽に手配できるサービスは、口コミで成長しているそうです。
チャオバスがレストランに求める配達手数料は平均20%ですが、これは大手サードパーティの一般的なパーセンテージよりは低いです。
立ち上がったばかりの当社は、まだ利益を上げてはいません。しかし、アジア料理に焦点を当てた効率性と、レストランだけではなく、食料品店の商品のデリバリーや、通常のレストランでの飲食サービスなど、複数の収入源があることで、将来的には利益を上げることができるとツァイ氏は考えています。
3. Slice(スライス)
画像はSliceのHPより
Slice(スライス)は、ローカルのピザレストランのための完璧なデジタルソリューションを目指したプラットフォームです。 全米の3,000都市に約13,000のレストランパートナーを持ち、アプリの登録者は490万人います。
パートナーのウェブサイトの管理やデジタルマーケティングなどをサポートし、消費者向けのアプリも提供しています。また、5月には「Slice Delivered」を通じたデリバリーサポートを開始しました。
スライスでは自社でドライバーを雇っておらず、レストランパートナーの80%以上が行う、彼らの自社デリバリーを利用してます。 スライスでは、パートナーの注文管理、マーケティング、物流を支援し、パートナーの自社デリバリーを最適化するための技術とサービスを開発している点が、ユニークなポイントです。
パートナーが自社デリバリーを行っていない場合は、スライスがDoorDash(ドアダッシュ)と交渉し、優遇された料金でドライバーを利用できるようにしています。配達の距離によりますが、通常1回のオーダーにつき、4~5ドルです。
スライスとしては、このサービスを導入するレストランが増えることで、デリバリー業界に競争を生みだし、配送コストを下げ続けることができると考えています。 スライスの使用手数料は、オーダーごとに支払う定額の2.25ドルで、これは相場の約6-7%程度の料金です。
スライスのサービスを使用しているレストランは、デリバリーにおいて約40%の売上増加をしていると、同社は報告しています。
ー YAGI USA コメント ー
今回の事例のように、あるポイントに「特化」したベンチャー的なデリバリーサービスが今後はより増えていくように思います。
改めてそれぞれのユニークな点をまとめると、
1. ランナー:レストランから配達手数料を取らず、ドライバーが自身の賃金を決めることができる
2. チャオバス:アジア料理のジャンルに特化し、厳選された店舗のみを掲載
3. スライス:ピザレストランに特化し、パートナーレストランの自社配達サービスを最適化するための技術を開発している
となります。
サービス料金、エリア、ジャンルなど、どこかしらに特化することで、ニッチだとしても大きな支持を得て、深い繋がりを作ることができています。
大手プラットフォームは、合併をしていくなど更に巨大化しています。その一方で、大手にはできないポイントを思いきり攻め、スピード感を持ち、小回りが利いたサービスを提供することで、ビジネスチャンスを掴んでいるのが、今回のような事例ではないでしょうか。
アメリカと比べて、コロナの影響の違いや、元々の国土の違いなどから、日本でのフードデリバリーサービスの利用の状況は異なると思います。
しかし、コロナをきっかけにフードデリバリーを使用し始め、その便利さを知った消費者も多いでしょうし、まだまだコロナも予断を許さない状況ですので、その利用率は今後も上がっていくと予想されます。
日本でも新たなデリバリーサービスのアイデアを考える際に、新たな取り組みを積極的に行っているアメリカの事例は参考になります。前代未聞の状況の中では、新たな状況に向かって考え、次々と変化しながら動いていく企業やブランドが勝ち残っていくように思います。
今後もユニークなサービスの登場には注目していきたいですし、競争がより熾烈になっていくアメリカのフードデリバリー業界の動向を今後もお伝えしていきます。
【YAGI USA ビジネスコラム ライター(東京): 神戸 孝平】
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